奇妙な手紙〜娘宛てのラブレターにお父さんが返信❗️
娘のあなた宛てにきたラブレターに、貴方のお父さんが返事を出したらどうしますか?あり得ませんね!そんな場面が、源氏物語に出てきます。
源氏物語の中には、沢山の消息、今でいうお手紙のやり取りが沢山出てきます。その中で最も奇妙な手紙が、明石の入道の光源氏への手紙、娘のラブレターにお父さんが返信した手紙です。
本文からそのやり取りを再現してみました。この作品は、光源氏の手紙2通、明石の君、その父親の明石の入道の手紙、合計4通からなっています。
この手紙の経緯を簡単に説明しましょう。
娘の入内を夢見ていた明石の入道、
朧月夜の君をめぐって自ら須磨に蟄居した光源氏を、夢に導かれたという明石の入道が訪ねます。
そこで自身の身の上と一人娘がいかに素晴らしいかを話します。
興味を持った光源氏は、早速娘(明石の君)に手紙を送ります。
作品画面右上の胡桃色の消息、上から目線で少し気取って歌一首をしたためます。
原文には「高麗の胡桃色の紙」(高麗産の丁子色、ともいう、黄色に赤身のある色の紙)、「えならずひきつくろひて」(何とも言えないほど念入りに体裁を整えて)とあります。
明石の君は気後れして、かたくなに返事を書きません。困った入道は、娘の代わりに代筆します。
陸奥紙(陸奥国産の紙、檀の皮から作るため檀紙ともいう)に「えならずひきつくろひて」(何とも言えないほど念入りに体裁を整えて)とあります。陸奥紙は通常懐にいれている実務的な紙なのですが、風流げに返歌をしたためます。受け取った光源氏はびっくり‼️
父親からの代筆の返事は初めてだと、あきれる光源氏。今度は、恋文らしく薄い色紙に歌を気楽にかきつけます。それが緑の紙です。透けるように薄い紙、当時の恋文にふさわしいとされた柔らかな紙。
原文では「いたうなよびたる薄様」(ほんとうに柔らかな薄様の紙)に「いとうつくしげにかきたまヘリ」(美しい風情にお書きになる)とあります。
写真の手紙の堺目を指で拡大してみてください。重ねたところに下の文字が透けてみえますね。
ようやく明石の君は返歌します。
紫の紙に歌一首返歌しました。(写真下)
「浅からず、しめたる紫の紙」(香を深く焚き染めた紫の紙)に「墨つき濃く薄く紛らはして」(墨付きが濃淡変化に富み)したためた明石の君の手紙。筆跡、書きぶりから、センス、教養ともに都の上流の姫君に劣らない、と光源氏は心惹かれます。
4枚の手紙のやりとりの場面を、原文に合わせた紙に、登場人物をイメージして書体を変えて書いてみました。
当時の手紙のやり取りには、内容(歌のよみぶり)はもちろんのこと、用途に応じた紙の種類、色、香り、書きぶりがいかに重要かがわかります。1通の手紙で、女の一生の運命がかわるといっても過言ではありませんでした。
それぞれの思いを運ぶ消息のやり取り。これからも紫式部の描いた物語世界を作品で可視化していきます。よろしくおつき会い下さいね。