甦る文のシリーズ
甦る文のシリーズ
平安時代の文学には、沢山の文(ふみ)が出てきます。本文を読み込み、再現していく新シリーズ「甦る文」
まずは、枕草子から再現してみましょう。
定子中宮と清少納言の文〜枕草子より
山吹の花に託す(137段)
① 文の背景
道長陣営へのスパイ容疑をかけられ、実家に引きこもる清少納言のもとに、中宮定子より文が届きます。
(本文)長女文もてきたり。(略)胸つぶれて疾く開けたれば、紙にはものも書かせたまはず、山吹の花びらただ一重を、包ませたまへり。それに「言はで思ふぞ」と書かせたまへる。いみじう日ごろの絶え間嘆かれつるみなぐさめてうれしきに
紙には何もお書きにならず、山吹の花びらただ一ひらが包まれ、そこに「言はで思ふぞ」とお書きになっておられました。「このところのお便りの途絶えがかなしかったことも 慰められて嬉しくて』と、清少納言は、感激します。
② 再現のポイント
山吹の花びら一枚に「言はで思ふぞ」と書き白い紙で包み、紙には何も書かない。思いの伝え方に、中宮定子のセンスが光り、魅力あふれる人柄が偲ばれます。
③作ってみたら
実際作ってみましたら、視覚的な効果もあることがわかりました。白い何も書かない紙に包むことで、ほんのり黄色が透けて見え、『何だろう?』という期待に胸が膨らみます。文の魅力の一つ、開けてビックリ‼️サプライズの要素満載。効果的ですね。
④おまけ
言わない事で、言葉にする以上の思いを伝える。なんて素晴らしい手紙でしょう!『言はで思ふぞ』は、『古今六帖』巻五「心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる」の第四句にあります。古今和歌六帖は、約4,500首の和歌を天象、地儀、人事、草虫木鳥の25項目、516題に分類して編集した私撰歌集です。作歌の際に利用しやすかったため、『源氏物語』にも影響を与えました。定子、清少納言、紫式部の共通の教養ベースがあればこそのやり取りですね。